講演要旨


●プログラム

講演1)「激動の奄美:大詰めのマングース対策、回復する希少種、それを食べだしたノネコ」亘悠哉

講演2)「回復する森林生態系:沖縄島北部やんばる地域の固有鳥類と外来種マングース対策」小高信彦

講演3)「やんばるの森の脅威 ノイヌ、ノネコ問題 〜終わりなき戦いを終わらせるために〜」長嶺隆

講演4)「海洋島小笠原の憂鬱:対策は1種2種では足りません」川上和人・堀越和夫(小笠原自然文化研究所)


1.『激動の奄美:大詰めのマングース対策,回復する希少種,それを食べだしたノネコ』

 

亘 悠哉(森林総合研究所)

 

 “Eradication is possible(外来種の根絶は可能である)”.近年,小面積の島を中心に,世界各地からの外来種根絶例が大幅に増加しており,このフレーズが国際会議などでは当たり前に聞かれるようになってきた.外来種の脅威だけが叫ばれた時代から,技術的には外来種に打ち勝てる時代に前進したことを象徴する変化である.外来種の侵入に対して手をこまねいているのは,場合によってはもはや不作為ともとられかねない時代に突入しているのだ.そして,次の時代に課せられているのは,より大きな島,より複雑な生態系において,我々が手にした技術をいかにうまく運用して根絶を達成できるかという挑戦である.

 その試みのひとつが,根絶までの最終ステージを迎えた奄美大島のマングース根絶事業であり,その成否は世界的にも注目されている.1970年代の終わり,毒蛇ハブの天敵として奄美大島にマングースが放たれたが,それ以降,在来種の姿が次々と見られなくなり,固有種の宝庫ともいわれる奄美の生態系が未曾有の惨禍に見舞われてしまった.ここから,島の面積712 km2という世界的にも根絶事例がほとんどなかった規模の外来種対策が始まった.そして今ではいくつものブレイクスルーを乗り越え,マングースは極低密度状態という大詰めの段階に至っている.さらに喜ばしいことに,複数の在来種が大幅に回復するという外来種対策の本来の目的を達成する大きな成果が得られているのだ.これだけの大きな島においても外来種対策が成功しうること,そしてその背景にある技術とその運用プロセスの到達点を示したことの意義は極めて大きいであろう.

 ところがこの話はハッピーエンドでは終わらない.ようやく回復してきた奄美の在来種を,今度はノネコが食べ始めたのである.しかも,食性を詳しく調べてみると驚愕の事態が判明した.ノネコの食べ物の9割以上を,いずれも絶滅危惧種のアマミノクロウサギ,アマミトゲネズミ,ケナガネズミの3種が占めていたのである.この事実を知った以上,我々人間が自然に対して果たすべき責任が発生し,ネコが希少種を食べている事態を一刻も早く解消しなければならない.そして,対策を少しでも効果的に進めていくためのサポートをするのが生態学者の役割である.

 しかしながら,人間社会の内部における複雑な調整が多すぎて,残念ながらノネコ対策はなかなか始まらない.生態学者VSノネコ問題のマッチアップはいまだゴング前である.


2.『回復する森林生態系:沖縄島北部やんばる地域の固有鳥類と外来種マングース対策』

 

小高信彦 (森林総合研究所 九州支所)

 

 ノグチゲラとヤンバルクイナは、沖縄島北部やんばる地域にのみ生息する希少な固有鳥類である。人口約32万人の都市、那覇市と地続きに約100km北上したところに、これらの生き物が暮らす、やんばるの森がある。森の地面に向けて自動撮影カメラを設置すると、飛べないヤンバルクイナだけでなく、キツツキであるノグチゲラもよく撮影される。地面に降りるノグチゲラのほとんどはオスで、そのくちばしには泥がついており、土を掘って餌をとっていることが分かる。ノグチゲラが巣穴のヒナに運ぶ餌を調べてみると、オスはセミの幼虫や地中性のクモ類を多く運び、メスはカミキリムシの幼虫など木の中に潜む虫を多く運んでいる。ノグチゲラは、限られた面積の島の森の中で、雌雄がうまくエサ場を分けることで、効率よく子育てをしている。雌雄が地面と樹上でエサ場を分ける習性は、世界のキツツキの中でもノグチゲラでしか報告されていない。ノグチゲラの独特の採餌行動や、ヤンバルクイナの無飛翔性の進化は、従来この島には食肉目の哺乳類が生息しない、安全な地上の採餌環境があったためだと考えられる。

 しかし、2006年、沖縄島の最北部に位置する西銘岳のカメラに外来種マングースが撮影された。マングースは、1910年、ハブやネズミ対策のために沖縄島南部那覇市周辺に導入された。1年約1kmの速さで分布を北へと広げ、1970年代には名護市周辺に、1990年代には塩屋湾から平良以北(STライン)に侵入した。ヤンバルクイナの分布南限が、マングース北上とあわせ北上していることなど、様々な研究成果からマングース問題の深刻さが認識され、2000年代初頭からマングース対策が始まった。環境省や沖縄県をはじめ、様々な機関や地域の努力により、マングース捕獲数は2007年をピークに減少をはじめ、ヤンバルクイナなど様々な希少種が増加傾向を見せ始めている。日本の哺乳類の中でも最も絶滅が危惧されているオキナワトゲネズミの個体群も、間一髪の状況で存続している。マングース導入から107年経過した現在、もし、マングース対策が行われていなければ、やんばる地域全域がマングース高密度地域となり、多くの固有種が絶滅していたであろう。

 2016年9月「やんばる国立公園」が指定され、世界自然遺産指定に向けた準備が行われている。マングース対策は、現在行われている保全事業の中でも、特に費用対効果が高く、その効果が目に見える事業である。STライン以北の貴重な森林生態系の回復を確実なものにするためにも、近い将来の沖縄島全域からのマングース根絶を願っている。

 


3.『やんばるの森の脅威 ノイヌ、ノネコ問題 ~終わりなき戦いを終わらせるために~』

 

長嶺 隆(NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄)

 

 2016年9月15日、沖縄島の北部の森林地帯「やんばる」が国内33番目の国立公園として産声を上げた。今年2月、政府はユネスコに対し奄美,徳之島、やんばる、西表島を世界自然遺産の候補地として推薦書を提出し、2018年夏の登録を目指している。奄美群島から八重山諸島に至る中~南琉球の固有種の多さや多様性は世界に誇るべきもので、次世代に引き継ぐべき価値を有するものであると確信している。しかし、やんばるの森で日々起こる事件を目の当たりにすると、果たして我々は「自然遺産」として次世代に残せるのだろうかと、大きな不安にかられてしまう。その不安の種のひとつが、本来はやんばるの森には生息していないはずの肉食の哺乳類の存在だ。     

 1910年、インドから持ち込まれたマングースは那覇市周辺で17頭が放された。沖縄島を北上したマングースはやんばるの森に入りこみ、在来種を捕食し生態系を危機的状態に陥れた。マングースによって追い込まれたやんばるの生き物たちに追い打ちをかけたのがノネコであった。元来ペットであるはずのネコが捨てられ野生化、あるいは不適切な飼育で集落から山域へ侵入し、ヤンバルクイナやノグチゲラ等のやんばるの固有種を捕食していった。しかし環境省や沖縄県による戦略的なマングース防除事業や国頭、大宜味、東のやんばる3村によるネコ飼養条例の施行、ノネコの捕獲、地域住民やNGOとの協働によってやんばるの希少種の生息状況は回復傾向を示すようになっていた。  

 ところが、ここ数年やんばるの森に新たな脅威となるノイヌの群れが出現した。ノイヌは最大20頭の群れを形成し、ヤンバルクイナやケナガネズミを捕食していることが明らかとなり、一部の地域では生息状況が回復していたヤンバルクイナの姿がほとんど見られなくなってしまった。これは「イタチごっこならぬ外来種ごっこ」である。現在関係機関で協議会を設置してノイヌ対策を実施しているが、事実上の侵略的外来種である犬や猫を遺棄してもほとんど検挙されず、増殖させても罰にはならない。この終わりなき戦いを終わらせる術はあるのだろうか。その答えは、外来種問題は人間の問題であるということに気づくことにある。この問題に終止符を打たないならば、すなわち残せる約束ができないのならば、世界自然遺産には登録されない可能性は高い。残せないものは遺産とは言えないからだ。外来種との戦いを終わらせる、これが次世代との約束だと思う。  


4.『海洋島小笠原の憂鬱:対策は1種2種では足りません』

 

川上和人(森林総合研究所)・堀越和夫(小笠原自然文化研究所)

 

 小笠原諸島は、本州の約1000km南に位置する亜熱帯の海洋島である。小笠原は現在進行中の進化が見られる生態系の持つ価値の高さから、2011年に世界自然遺産地域に登録されている。一方で、多くの侵略的な外来生物が侵入しており、生態系の価値の喪失の危機に陥っている。在来植物を圧迫し植生の構造を大きく変化させてしまうトクサバモクマオウやアカギなどの樹木、旺盛な植食者であるノヤギ、動物食者のノネコやグリーンアノール、ニューギニアヤリガタリクウズムシ、雑食者のネズミ類などは、特に問題視されている。このような背景から、環境省や林野庁、東京都などにより外来生物の駆除事業が実施されてきた。

 外来生物駆除は世界各地で実施されており、駆除の技術は向上してきている。しかし、複数の外来生物が定着している生態系では、特定の外来生物の排除が生態系に予期せぬ負の影響を及ぼすことが明らかになってきている。例えば、ネコなどの上位捕食者の駆除により、中間捕食者であるネズミなどが増加するMesopredator releaseや、ヤギやヒツジなど植食者を駆除することで外来植物が増加するHerbivore releaseは、様々な島嶼で生じている典型的な例である。複数の侵略的外来生物が定着している小笠原でも、同様のことが生じる可能性があるため、各種駆除事業では同時に生態系変化に関するモニタリング調査が行われている。

 小笠原では、外来動植物の駆除の結果、生態系において多くの正の効果が得られている。鳥類に関しても、ノヤギ駆除による海鳥営巣地の拡大や、ネズミ駆除に伴うウグイスの繁殖分布の回復、トクサバモクマオウ駆除による在来植生の回復に伴う果実食鳥類の増加などが見られている。一方、ノヤギ駆除によるギンネムなどの外来植物の増加や、ネズミ駆除に伴う食物減少によるノスリの繁殖成功の低下など、負の効果も生じている。

 このような問題を解決するには、外来生物が生態系の中で持つ機能を理解し、複数の外来生物の体系的な駆除が必要となる。外来生物対策では、特定の種の駆除が短期的な目標とされることがしばしばあるが、最終的な目標は在来生態系の保全にあることを常に意識し、目的達成のために必要な複数の外来生物を対象とした管理計画を策定しなくてはならない。とはいえ、外来生物による生態系影響の緩和は急務であり、十分な科学的証拠を収集する時間は必ずしも残されていない。研究者、地元コミュニティ、行政機関等が連携し、複数のシナリオを想定することで、事業を迅速かつ丁寧に進めることが求められている。